こんにちは。

前回のページでは、バスキング(路上ライブ・ストリートパフォーマンス)の心得についてお話ししました。

 

 

今回からは、海外でバスキングをやってみると言う部分に焦点を絞って、バスキングのプロセスを語っていきたいと思います。

 

 

 

バスキング(Busking)とは、路上でパフォーマンスする事。つまり大道芸。

 

そして、その大道芸をする人の事をバスカー(Busker)と呼びます。

 

遠い昔、まだ音楽にぼんやりとしか憧れを抱いていなかった頃。

 

当初から、そして今でも大親友である長い付き合いの友人が、

「いつか、イギリスでバスキングをやりたいんだよね!」

そう、よく口にしていました。

 

バスキングの意味を一番最初に知ったのは、その親友からだったと思います。

 

その親友は、とにかくジャンルに関わらず音楽の全てに詳しくて、特にロックに関しては右に出る者が居ないほどのマニア。

おかげで、私もかなり昔から「バスキング」と言う言葉が頭に入っていました。

 

将来、バスキングを実際にやり、しかもイギリスの地で日々演奏する事になるとは思いもしませんでしたが、その原点が交友関係・環境だったことは間違いないです。

 

当初は私も、バスキング=イギリスのもの、と言う認識でしたが、実際は、「路上演奏をする」と言うことを英語で表現しただけであるので、ストリートパフォーマンスをすれば、立派なバスカーという事になるのです。

 

ストリートパフォーマンスというのは組み合わせた言葉になりますが、バスキング、つまり、「Busk」「Busking」「Busker」は、その言葉そのものに意味をもつ単語として、辞書で検索できます。

 

バスキング。なんて便利な言葉でしょう。

 

イギリスでのバスキングは、日本のプロモーション風のそれとは違い、プロのミュージシャンの腕慣らしであったり、生活のためとしての死活問題として、なくてはならないものであったりする人もいます。

それを生業としてやっている人も多いわけです。

 

ですから「バスキング」というのは、「歌手」「バンド」「スタジオミュージシャン」などと同じく、ひとつの音楽職業のジャンルでもあり、「バスカー」という存在そのものが、一般的にも認識されているわけで。

 

「私の職業は、バスカーです。」

こういうのもアリなのが海外の良いところ?

実は私は、不動産を「職業:バスカー」で借りたこともあります。日本ではあり得ない話しですよね。(笑)

 

 

プロモーションとして歌い演奏するという日本式のバスキングの場合は、オーディエンスも、応援する、声援を送る、ファンとして近づきたい、音楽を身近に聞きたい・・・そういう意識が先にあります。

チップを与えるなんて、逆に失礼。そんな無粋なことはしない。

将来的にも声援を送り続けるというスタンスで応援する。

それが、日本の「ストリート」の概念に近いです。

 

英国のバスキングとは、ずばりチップです。

それが人気の証でもあり、オーディエンスからのお礼の証。

オーディエンスがバスカーを応援したい時には、心付けで表現します。

立ち止まって声援を送ったり、ライブの予定を聞いたりなどは、バスカーたちの仕事や通行人の邪魔になります。

遠くからそっと聞いたり、通り過ぎる瞬間にチップでお礼を伝えること、それが最大限の誠意です。

 

ただ、いくらバスキングというスタイルが職業的に確立しているように見えるイギリスでも、「バスカー」というのは、プロとして満足な収入が無いプロのこと、という意識が皆にあるのも事実です。

あくまで、ステップアップとしてバスキングをやる、と、期限を決めて挑む方が良いかもしれませんね。

 

と、いうのも、そもそも本腰入れれば、バスキングだけでも食べていけるのです。

勿論、相当な体力を消耗しますし、それ一本に絞る事になるので、ミュージシャン同士のつながりや、別ジャンルへの進出、そして社会交流も疎かになってしまいます。

しかし、生活がなんとかできてしまうが故に、逆にそこから抜け出せない。

現状維持に走ってしまって、本来の目標を忘れてしまいがち、というネガティブ面もあります。

 

 

バスキングで身につくこと、学べること

 

バスキングを長時間繰り返すことで身につくことは以下になります。

 

  1. 即興性が身につく
  2. オーディエンスがお花畑に見えるようになる(緊張しなくなる)
  3. もし間違えてもうまく誤魔化せるテクニックが身につく
  4. 多少の野次に全く動じない強靭なメンタルになる
  5. みんなに聞いてほしい!など、自分の主張が無くなる(バンドや集団演奏の際の協調性ができる)
  6. ボーカルや吹奏楽器なら強靭な喉や肺活量、弦楽器奏者なら強靭な指になる
  7. 延々と10時間歌ったり演奏できるようになるため、2時間のステージで疲れることは無くなる(ライブが楽になる)
  8. 水を飲まずとも長時間歌えるようになる
  9. 図々しくなる(周りに変な目で見られても気にならない)
  10. 悪さをしようとする人間への鼻が効くようになる

 

まだまだありそうな気もしますが、こんな感じでしょうか。

 

例えば、「自分の主張が無くなる」これってどうなの?という項目もあります。

完全に主張がなくなると無個性になっちゃうので、ソロアーチストとしてはダメですが、バスキング上では自己主張ゼロでもいいくらいです。

 

これを身につけることで、自分自身のライブや活動で活かせることもあるんですよ。

 

以前、日本の著名な作曲家さんに、こう言われたことがあります。

 

「歌を”聞いて聞いて!”と歌うと、客は引いて、聞かなくなる。逆に、語りかけるようにふっ、と歌うと、”えっ” と、耳を傾ける。」

 

それまで私は、感情、表現、そして迫力や声量が大事だと思っていたんです。(もちろんピッチや表現力などの基本的なことは前提です。)

 

もともと、声量はかなりある方なんですが、CDノリ(録音ノリ)が悪いので、ライブや生の方がノリがいいんですよ。

 

でも、声量がある分、頑張って歌っちゃうと、まさに「聞いてくれー!」という雰囲気になり、ただやかましい耳障りなだけになるんですね。

そこで見兼ねた作曲家の先生が、軽くアドバイスを下さったのが、上記のお言葉。

 

恋愛と同じでしょうか、押してダメなら引いてみろ、ってね。

 

実はこのアドバイスをいただいた時には、あまりその意味を実感してなかったんですよね。

ただ、頑張って上手に歌うということを心がければ良いと。

そして、歌が上手い人=声量があり音域がある、というのが頭にありました。

 

だから歌うとなったらもう、力いっぱいでしたよね。最初から最後まで抜かない。(笑)

それをそのまんま、バスキングのピッチで、生歌でやってたんですよね。特に、ストリートでやる以上、雑踏にかき消されないように声量ないとまず通行人に聞こえないですから。

 

そして、選曲も思いっきり歌い込み系。まさに聞いてくれーって感じで弾き語りをしてたのです。

 

それなのに、ちっともチップが入らない。相手にもされない。

冷静に考えたら、やかましいだけの何の良さもない歌だったということなんですが(笑)でも、正確に元気に歌えばいいってもんじゃないんですよね。ホント。

 

頑張れば頑張るほど、なんか通行人が引いてるような気がするんですよ。

新人の頃、それこそ始めたばかりの1週間くらいは、2時間やっても10ポンド前後しか入らないんですよ。6時間演奏しても30ポンドに至らない。生活できないですね。泣きそうでした。

 

そんな時に、ふっと、その先生の言葉を思い出したんです。

 

そこで、歌い込み系、抑揚のついたメロディーラインの曲をバスキングで演奏するのをやめて、カフェで流れるような心地よい曲や、単調なポップス曲ばかりをやるようにしました。

そして(別に、生声が雑踏に消されちゃってもいいや。どうせチップ入らないんだし、楽にやろう)と思って、まさに「適当に」歌ったんですよ。

 

そしたら!

入る入る、チップがザクザク。えー!ってびっくりしながらも演奏を続けながら、チラリと足元のギターケースを見ると、にやけ顔が止まらない。(笑)

だんだん気持ち良くなってくると、お得意のレパートリーや、歌い込み系にちょっと走っちゃったりするんです。そしたらまた、なんとなく「引いて」いく。

 

実際には、気楽に歌ってる方が良い、というだけだったんだと思うんですけど、歌い込み系を歌ってた頃はまさに「自己主張」が勝っていたんです。

自分の思いの方が前に出てたのね。

 

でもここは公共の場所。相手は自分の友達でもファンでもない通行人。

だからこそ、自分の主張を抑えた時に、相手によって耳に心地よくさりげなく聞けるBGMとして伝わったのだと思います。

そして、イギリス人は正直なので、感謝の気持ちをチップで表すのです。

 

つまり、それ以前までの私のバスキングは、歓迎されてなかったのでチップが入らなかったんですね。(笑)

 

バスキングの場合は路上ですから、音響の環境というのはかなり悪いです。音の反響するようなものも無い事がほとんどだし、何より通行人の声や足音、雑踏などで演奏音量はグッ、と小さく聞こえるわけです。

だから、当然声量も必要。

しかし、声量と、ただ叫んでるようなやかましいのとは別です。

私はきっと、叫んでいたのかもですね。「誰かチップくれよう!涙」って。(笑)

 

バスキングをやる上で、主役は通行人の方々。

いろんな人が行き交う中で、音楽を聞きたくない人もいれば、バスカーの音や声が好みでない人もいます。むしろ、そういった人たちが大半です。

万人が気分を害されることもなく、逆に気持ちよく聞ける音楽を届けるために、私たちはバスキングをしているのです。

 

大事なことは「引いて演奏すること」なのです。

 

自分を出そうとするならば、自分達のライブでやればいいことですからね。

 

そして、この「引いて歌う・演奏する」ということ。

これを学ぶことで何に役立つかといえば。

 

歌手としての基本的なことや心構えを体で学べた、ということです。

基本ができてなかったんだな〜(笑)

 

あと、ライブやレコーディングはマイクパフォーマンスなので、引きの歌い方も抑揚や表現力の面で活かせると思います!

 

 

 

最も役に立つのは、バスキングをやることで耐久性が身につくことですね。

メンタル強化よりも何よりも、耐久性。

 

みなさんもよくご存知のように、ミュージシャンも体力は本当に必要ですから。

 

海外のバスカーたちは、最低でも4時間、多くて10時間くらいの演奏を、毎日毎日続けています。

基本的に、同じ場所では2時間までしかやれませんが、5分〜15分を移動時間に使ったら、すぐにスタートです。

 

バスキングの目的は、音楽演奏でもあり、同時にチップを得ることでもあるのです。

そのタイミングは誰にもわかりません。どんな人がいつ目の前を通るかわかりません。

1秒たりとも無駄にできないのです。

 

だからこそ、バスカーのセッティングはめちゃくちゃ早いですよ。

私の場合は生アコギ、生歌だからチューニングするだけですが、アンプを駆使してるバスカーも、びっくりするくらいにセッティングも片付けも早いです。

 

これは、ジャムセッション会場でも活かせるし、自分のライブや対バンのセット替えの際にも超役に立ちます。

自宅でひとりで演奏する際も、セッティングに無駄な時間をかけないことを心がけてやると良いと思います。必ず役立ちます。

(レコーディングの場合は別です。そちらはキチンと時間をかけてセッティングしましょう。)

 

さて。バスキングを開始した瞬間からが勝負。

そこから自分の枠の終了時間までは、手を休めません。

また、時間内いっぱいいっぱいまで、演奏を続けます。

 

例えば、午前にバスカーの目の前を通った人が買い物を終え、昼過ぎに再び通ってくれるかもしれませんからね。

その人の心を掴めるのが、その二度目の演奏なんです。演奏時間は可能な限りギリギリまで続けるのが大事。

 

音響の悪い場所で長時間歌ったり演奏すると、相当な体力を消耗します。

 

でも、「慣れ」って結構便利なもの。

気がつくと、喉が強靭になって、ちょっとやそっとじゃ潰れなくなるほか、ライブ演奏や長時間のレコーディングも楽々こなせるようになります。

 

また、バスキングの場合はもちろん一人で挑むわけですから、一旦その場で演奏始めるとトイレも行けません。

ご存知の通りに、日本と違ってロンドンはその辺に公共トイレがあるわけでもないし、あっても有料。トイレを探したら、入り口でコインを通してあれこれ、と面倒くさいわけです。

移動の度にトイレに駆け込む時間も勿体無い。1分でも多く演奏すれば、1ペンスでも違ってきますからね。

 

バスキングの稼働中はやたらと水分を取ることも減ってきます。トイレの心配したくないですからね。

そうすると、水なんかなくったって余裕で歌えるようになるんですよ。

喉を頻繁に潤さなくっても声なんて枯れないんですよ。人間の体って強いですよ〜。でも、喉は体質も関係あると思うので、真似はしないでください。

あくまで個人的な経験談として語ると、私はバスキング中、8時間水飲まないでやったことありますが、コンディションは全く変わりませんでした。

 

ただ、体調管理のために水分は摂った方がいいですよ。この辺は参考にしないでください。(笑)

 

バスキングをやることで、持続力、耐久性がつくこと。これは本当に大きな利点です。

 

ミュージカルスターさんが、昼夜公演を連日行ってますよね。

ものすごい体力だと思うんですよ。

全国的なコンサートツアーもかなりハードですよね。

 

レベル・スキルや、やってることの難易度は、上記のそれらには全く及びませんが(汗)、体力的には上記の活動のようなことを毎日やっていると言っても、過言ではないです。

だから、ライブとかスタジオリハーサル、ひいてはレコーディングもすごく楽になりますよ!

 

また、譜面も見ずに演奏を何時間もやっていると、間違えたりすることはしょっちゅうです。(笑)

それでも通行人は目の前を過ぎていくので、間違えた瞬間を目撃した人だってたくさんいます。すかさずツッコミが入る事もありますよ。

 

間違えないのがベストですが、もし間違えた場合でも、シラ〜ッとごまかすテクニックも身に付きます。(笑)

 

あと、冷やかしやヤジ、暴言を受けたり、嫌がらせがあること。これは大体2時間あたり5回くらいはネガティブなインパクトを受けるでしょうね。

だって何万人と目の前を歩いてるから、5回でも少ない方です。

 

でも、全く気にならなくなります。

体力の消耗に比べたら、この辺は余裕ですよ。

 

 

人と出逢うこと、それが何よりの財産

 

バスキングにとって一番の財産であり、一番面白いこと。

それは、街の人々の空気を感じられることです。

 

たった一人で延々と演奏してても、孤独な演奏は続くばかり。

目の前を行き交う人々を観察しながら演奏をすることもしばしば。

 

そうすると、街の空気が手に取るようにわかるのです。

 

ああ、何か悪いニュースがあったんだな、とか。

辛いのかな、頑張って!とか。

良いことあったのかな、楽しそうだな。フットボールで優勝したんだな、とか。

 

やがて、空気感だけでなく、目の前を通る一人一人の表情まで察することができるようになるんです。

 

仙人かよ!って、ホントホント。

 

もちろん、こちらに悪さをしようとしてる人が近づいてくるとわかりますよ。

スリ集団もわかりますね。

おかげで私は、バスキングの悪い面・被害はほとんど受けてないです。2回くらい?チップを盗まれたことはありますが、最初の頃だけ。今やすぐわかりますので盗まれる前に妨害します。

 

人間って、それほどまでに本人の気持ちというのが、姿かたち、その雰囲気に現れているのです。

そして、それが周りに影響を与えるのです。

街が明るい空気であれば、人々の表情も明るく、わたしたちバスカーも幸せになるんです。

 

一期一会である出会いが数多く存在するその場所で、見ず知らずの者同士、バスカーと通行人がその瞬間だけつながるのです。

 

そして、「Thank you」という言葉を人々から受けることができる。

それがバスカーにとっての、一番の財産ではないでしょうか。

 

ぜひ、皆さんも、バスキングにトライしてみてください。

 

 

次回は、海外バスキングの具体的なプロセスの第一段階として、「バスキングの目標設定」について、語っていきたいと思います。

 

ご一読ありがとうございました。

 

 

バスキング(路上ライブ)をやる目的は?チップは課税?まずは目標を設定しましょう!

 

バスキング生活の意外な落とし穴

 

私が公認バスカーとして国から公式な演奏ライセンスを取得したばかりの頃に、美しい女性バスカーがいました。

その女性バスカーは私と同期。同じオーディションで共に合格し、同じ時期に始めた仲間です。

 

その彼女。

格好良かったのが、1年も経たないうちに、免許を返納しちゃったんですよね。

 

バスキングを初めて半年くらいは過酷な日々が続きますが、半年を過ぎると、良い演奏場所にも恵まれるようになり、収入も増えてくるんです。

 

ミュージシャンを志す者、プロとして活躍しながらもちょっとしたアルバイトをしたいミュージシャン。そんな皆がこぞってチャレンジするバスキングの公式ライセンス。

合格して取得に至るまでが大変。

そして、毎日大好きな音楽を演奏できて、ようやく半年が過ぎ、チップの量も増えてくる。

 

そんな最中に、ぽいっ!と免許を捨てちゃうんですから。クールですよ。

 

ほとんどのバスカーは、バスキングに慣れて人々にも認識してもらえるようになった1年目を終える頃から、さらに精力的にバスキングに力を入れるのです。

しかし、現実は甘くありません。

1年を過ぎ、2年を過ぎると、今度は「飽きられる」という現象が起こります。

1日何時間も、365日(厳密にはクリスマスは休みです)、毎日嫌というほど同じスタイルで演奏してると、本人もちょっぴりマンネリになってきますが、それは通行人側も同じ。

 

3年にもなると、バスカーの収入も伸び悩み始め、続けるかどうかという壁に当たります。

 

怖いのが、それでもなんとか食べてはいけるので、生活のためにと頑張ってしまう事がほとんどなのです。

決して悪い事ではありませんが、バスキングは相当な体力や時間を消費しますので、他の音楽の仕事に十分な時間を注げなかったり、社会的交流を保つのも困難になります。

自分の曲を作って世の中に聞いてもらう、という目標のためのステップのバスキングだったのに、気づけばバスキングに縛られてしまって、時間だけが過ぎてしまうのです。

それこそが、バスキングの落とし穴。はまってしまうと抜け出せない。

 

それでも、バスキングを続けてしまうバスカーが多いのは、やはり演奏することが何よりも好きだからということ。そして、なんだかんだバスキングが好きってことでしょうかね。

 

 

しかし、その知人のバスカーは、バスキングを始めた途端にそれを悟ったというのです。

「このまま、このステージ(バスキングピッチ)に立つよりも、違うステージを目指すわ。だからライセンス入らない。(ロンドン)市に返しちゃった!」

 

うーん、カッコよかったですね。

自分はそんな風にできなかったんだけどね。(笑)

 

彼女は今、ジャズ奏者として様々なライブや作品に参加しています。

バスキングをやらずとも音楽一本で食べていくようになりたい、そう決めて選んだ道を見事に突き進んで、音楽一本で生活しています。

 

 

こんな話しを最初にしちゃったら、バスキングを推奨するどころか、やらない方が良いと言っているみたいですね。すみません。(汗)

 

そんなことはないです。やる価値もあり、得るものも大きいです。

 

経験の一つとしてトライしてみるだけでも、大きな財産になると私は思います。

 

 

 

バスキングで身につくこと、学べること

 

バスキングを長時間繰り返すことで身につくことは以下になります。

 

  1. 即興性が身につく
  2. オーディエンスがお花畑に見えるようになる(緊張しなくなる)
  3. もし間違えてもうまく誤魔化せるテクニックが身につく
  4. 多少の野次に全く動じない強靭なメンタルになる
  5. みんなに聞いてほしい!など、自分の主張が無くなる(バンドや集団演奏の際の協調性ができる)
  6. ボーカルや吹奏楽器なら強靭な喉や肺活量、弦楽器奏者なら強靭な指になる
  7. 延々と10時間歌ったり演奏できるようになるため、2時間のステージで疲れることは無くなる(ライブが楽になる)
  8. 水を飲まずとも長時間歌えるようになる
  9. 図々しくなる(周りに変な目で見られても気にならない)
  10. 悪さをしようとする人間への鼻が効くようになる

 

まだまだありそうな気もしますが、こんな感じでしょうか。

 

例えば、「自分の主張が無くなる」これってどうなの?という項目もあります。

完全に主張がなくなると無個性になっちゃうので、ソロアーチストとしてはダメですが、バスキング上では自己主張ゼロでもいいくらいです。

 

これを身につけることで、自分自身のライブや活動で活かせることもあるんですよ。

 

以前、日本の著名な作曲家さんに、こう言われたことがあります。

 

「歌を”聞いて聞いて!”と歌うと、客は引いて、聞かなくなる。逆に、語りかけるようにふっ、と歌うと、”えっ” と、耳を傾ける。」

 

それまで私は、感情、表現、そして迫力や声量が大事だと思っていたんです。(もちろんピッチや表現力などの基本的なことは前提です。)

 

もともと、声量はかなりある方なんですが、CDノリ(録音ノリ)が悪いので、ライブや生の方がノリがいいんですよ。

 

でも、声量がある分、頑張って歌っちゃうと、まさに「聞いてくれー!」という雰囲気になり、ただやかましい耳障りなだけになるんですね。

そこで見兼ねた作曲家の先生が、軽くアドバイスを下さったのが、上記のお言葉。

 

恋愛と同じでしょうか、押してダメなら引いてみろ、ってね。

 

実はこのアドバイスをいただいた時には、あまりその意味を実感してなかったんですよね。

ただ、頑張って上手に歌うということを心がければ良いと。

そして、歌が上手い人=声量があり音域がある、というのが頭にありました。

 

だから歌うとなったらもう、力いっぱいでしたよね。最初から最後まで抜かない。(笑)

それをそのまんま、バスキングのピッチで、生歌でやってたんですよね。特に、ストリートでやる以上、雑踏にかき消されないように声量ないとまず通行人に聞こえないですから。

 

そして、選曲も思いっきり歌い込み系。まさに聞いてくれーって感じで弾き語りをしてたのです。

 

それなのに、ちっともチップが入らない。相手にもされない。

冷静に考えたら、やかましいだけの何の良さもない歌だったということなんですが(笑)でも、正確に元気に歌えばいいってもんじゃないんですよね。ホント。

 

頑張れば頑張るほど、なんか通行人が引いてるような気がするんですよ。

新人の頃、それこそ始めたばかりの1週間くらいは、2時間やっても10ポンド前後しか入らないんですよ。6時間演奏しても30ポンドに至らない。生活できないですね。泣きそうでした。

 

そんな時に、ふっと、その先生の言葉を思い出したんです。

 

そこで、歌い込み系、抑揚のついたメロディーラインの曲をバスキングで演奏するのをやめて、カフェで流れるような心地よい曲や、単調なポップス曲ばかりをやるようにしました。

そして(別に、生声が雑踏に消されちゃってもいいや。どうせチップ入らないんだし、楽にやろう)と思って、まさに「適当に」歌ったんですよ。

 

そしたら!

入る入る、チップがザクザク。えー!ってびっくりしながらも演奏を続けながら、チラリと足元のギターケースを見ると、にやけ顔が止まらない。(笑)

だんだん気持ち良くなってくると、お得意のレパートリーや、歌い込み系にちょっと走っちゃったりするんです。そしたらまた、なんとなく「引いて」いく。

 

実際には、気楽に歌ってる方が良い、というだけだったんだと思うんですけど、歌い込み系を歌ってた頃はまさに「自己主張」が勝っていたんです。

自分の思いの方が前に出てたのね。

 

でもここは公共の場所。相手は自分の友達でもファンでもない通行人。

だからこそ、自分の主張を抑えた時に、相手によって耳に心地よくさりげなく聞けるBGMとして伝わったのだと思います。

そして、イギリス人は正直なので、感謝の気持ちをチップで表すのです。

 

つまり、それ以前までの私のバスキングは、歓迎されてなかったのでチップが入らなかったんですね。(笑)

 

バスキングの場合は路上ですから、音響の環境というのはかなり悪いです。音の反響するようなものも無い事がほとんどだし、何より通行人の声や足音、雑踏などで演奏音量はグッ、と小さく聞こえるわけです。

だから、当然声量も必要。

しかし、声量と、ただ叫んでるようなやかましいのとは別です。

私はきっと、叫んでいたのかもですね。「誰かチップくれよう!涙」って。(笑)

 

バスキングをやる上で、主役は通行人の方々。

いろんな人が行き交う中で、音楽を聞きたくない人もいれば、バスカーの音や声が好みでない人もいます。むしろ、そういった人たちが大半です。

万人が気分を害されることもなく、逆に気持ちよく聞ける音楽を届けるために、私たちはバスキングをしているのです。

 

大事なことは「引いて演奏すること」なのです。

 

自分を出そうとするならば、自分達のライブでやればいいことですからね。

 

そして、この「引いて歌う・演奏する」ということ。

これを学ぶことで何に役立つかといえば。

 

歌手としての基本的なことや心構えを体で学べた、ということです。

基本ができてなかったんだな〜(笑)

 

あと、ライブやレコーディングはマイクパフォーマンスなので、引きの歌い方も抑揚や表現力の面で活かせると思います!

 

 

 

最も役に立つのは、バスキングをやることで耐久性が身につくことですね。

メンタル強化よりも何よりも、耐久性。

 

みなさんもよくご存知のように、ミュージシャンも体力は本当に必要ですから。

 

海外のバスカーたちは、最低でも4時間、多くて10時間くらいの演奏を、毎日毎日続けています。

基本的に、同じ場所では2時間までしかやれませんが、5分〜15分を移動時間に使ったら、すぐにスタートです。

 

バスキングの目的は、音楽演奏でもあり、同時にチップを得ることでもあるのです。

そのタイミングは誰にもわかりません。どんな人がいつ目の前を通るかわかりません。

1秒たりとも無駄にできないのです。

 

だからこそ、バスカーのセッティングはめちゃくちゃ早いですよ。

私の場合は生アコギ、生歌だからチューニングするだけですが、アンプを駆使してるバスカーも、びっくりするくらいにセッティングも片付けも早いです。

 

これは、ジャムセッション会場でも活かせるし、自分のライブや対バンのセット替えの際にも超役に立ちます。

自宅でひとりで演奏する際も、セッティングに無駄な時間をかけないことを心がけてやると良いと思います。必ず役立ちます。

(レコーディングの場合は別です。そちらはキチンと時間をかけてセッティングしましょう。)

 

さて。バスキングを開始した瞬間からが勝負。

そこから自分の枠の終了時間までは、手を休めません。

また、時間内いっぱいいっぱいまで、演奏を続けます。

 

例えば、午前にバスカーの目の前を通った人が買い物を終え、昼過ぎに再び通ってくれるかもしれませんからね。

その人の心を掴めるのが、その二度目の演奏なんです。演奏時間は可能な限りギリギリまで続けるのが大事。

 

音響の悪い場所で長時間歌ったり演奏すると、相当な体力を消耗します。

 

でも、「慣れ」って結構便利なもの。

気がつくと、喉が強靭になって、ちょっとやそっとじゃ潰れなくなるほか、ライブ演奏や長時間のレコーディングも楽々こなせるようになります。

 

また、バスキングの場合はもちろん一人で挑むわけですから、一旦その場で演奏始めるとトイレも行けません。

ご存知の通りに、日本と違ってロンドンはその辺に公共トイレがあるわけでもないし、あっても有料。トイレを探したら、入り口でコインを通してあれこれ、と面倒くさいわけです。

移動の度にトイレに駆け込む時間も勿体無い。1分でも多く演奏すれば、1ペンスでも違ってきますからね。

 

バスキングの稼働中はやたらと水分を取ることも減ってきます。トイレの心配したくないですからね。

そうすると、水なんかなくったって余裕で歌えるようになるんですよ。

喉を頻繁に潤さなくっても声なんて枯れないんですよ。人間の体って強いですよ〜。でも、喉は体質も関係あると思うので、真似はしないでください。

あくまで個人的な経験談として語ると、私はバスキング中、8時間水飲まないでやったことありますが、コンディションは全く変わりませんでした。

 

ただ、体調管理のために水分は摂った方がいいですよ。この辺は参考にしないでください。(笑)

 

バスキングをやることで、持続力、耐久性がつくこと。これは本当に大きな利点です。

 

ミュージカルスターさんが、昼夜公演を連日行ってますよね。

ものすごい体力だと思うんですよ。

全国的なコンサートツアーもかなりハードですよね。

 

レベル・スキルや、やってることの難易度は、上記のそれらには全く及びませんが(汗)、体力的には上記の活動のようなことを毎日やっていると言っても、過言ではないです。

だから、ライブとかスタジオリハーサル、ひいてはレコーディングもすごく楽になりますよ!

 

また、譜面も見ずに演奏を何時間もやっていると、間違えたりすることはしょっちゅうです。(笑)

それでも通行人は目の前を過ぎていくので、間違えた瞬間を目撃した人だってたくさんいます。すかさずツッコミが入る事もありますよ。

 

間違えないのがベストですが、もし間違えた場合でも、シラ〜ッとごまかすテクニックも身に付きます。(笑)

 

あと、冷やかしやヤジ、暴言を受けたり、嫌がらせがあること。これは大体2時間あたり5回くらいはネガティブなインパクトを受けるでしょうね。

だって何万人と目の前を歩いてるから、5回でも少ない方です。

 

でも、全く気にならなくなります。

体力の消耗に比べたら、この辺は余裕ですよ。

 

 

人と出逢うこと、それが何よりの財産

 

バスキングにとって一番の財産であり、一番面白いこと。

それは、街の人々の空気を感じられることです。

 

たった一人で延々と演奏してても、孤独な演奏は続くばかり。

目の前を行き交う人々を観察しながら演奏をすることもしばしば。

 

そうすると、街の空気が手に取るようにわかるのです。

 

ああ、何か悪いニュースがあったんだな、とか。

辛いのかな、頑張って!とか。

良いことあったのかな、楽しそうだな。フットボールで優勝したんだな、とか。

 

やがて、空気感だけでなく、目の前を通る一人一人の表情まで察することができるようになるんです。

 

仙人かよ!って、ホントホント。

 

もちろん、こちらに悪さをしようとしてる人が近づいてくるとわかりますよ。

スリ集団もわかりますね。

おかげで私は、バスキングの悪い面・被害はほとんど受けてないです。2回くらい?チップを盗まれたことはありますが、最初の頃だけ。今やすぐわかりますので盗まれる前に妨害します。

 

人間って、それほどまでに本人の気持ちというのが、姿かたち、その雰囲気に現れているのです。

そして、それが周りに影響を与えるのです。

街が明るい空気であれば、人々の表情も明るく、わたしたちバスカーも幸せになるんです。

 

一期一会である出会いが数多く存在するその場所で、見ず知らずの者同士、バスカーと通行人がその瞬間だけつながるのです。

 

そして、「Thank you」という言葉を人々から受けることができる。

それがバスカーにとっての、一番の財産ではないでしょうか。

 

ぜひ、皆さんも、バスキングにトライしてみてください。

 

 

次回は、海外バスキングの具体的なプロセスの第一段階として、「バスキングの目標設定」について、語っていきたいと思います。

 

ご一読ありがとうございました。

 

 

バスキング(路上ライブ)をやる目的は?チップは課税?まずは目標を設定しましょう!