
こんにちは。
前回のページでは、バスキング(路上ライブ・ストリートパフォーマンス)の心得についてお話ししました。
今回からは、海外でバスキングをやってみると言う部分に焦点を絞って、バスキングのプロセスを語っていきたいと思います。
まず今日は、海外でのバスキング事情に加え、バスキングのおさらいということで、改めて、心得のパート2!といったお話しをしますね!
バスキング(Busking)とは、路上でパフォーマンスする事。つまり大道芸。
そして、その大道芸をする人の事をバスカー(Busker)と呼びます。
遠い昔、まだ音楽にぼんやりとしか憧れを抱いていなかった頃。
当初から、そして今でも大親友である長い付き合いの友人が、
「いつか、イギリスでバスキングをやりたいんだよね!」
そう、よく口にしていました。
バスキングの意味を一番最初に知ったのは、その親友からだったと思います。
その親友は、とにかくジャンルに関わらず音楽の全てに詳しくて、特にロックに関しては右に出る者が居ないほどのマニア。そして、本人のイギリス好きの影響もあるせいか、日本人にも関わらず、見た目の雰囲気も性格もファッションも、まるでイギリス人みたいな人なのです。
そんな親友のおかげで、私もかなり昔から「バスキング」と言う言葉が頭に入っていました。そして将来、バスキングを実際にやり、しかもイギリスの地で日々演奏する事になるとは思いもしませんでしたが、その原点が、親友の影響であることは明らかですね。(笑)
当初は私も、バスキング=イギリスのもの、と言う認識でしたが、実際は、「路上演奏をする」と言うことを英語で表現しただけであるので、ストリートパフォーマンスをすれば、立派なバスカーという事になるのです。
ストリートパフォーマンスというのは組み合わせた言葉になりますが、バスキング、つまり、「Busk」「Busking」「Busker」は、その言葉そのものに意味をもつ単語として、辞書で検索できます。
バスキング。なんて便利な言葉でしょう。
以前に何度かお話しした通り、イギリスでのバスキングは、日本のプロモーション風のそれとは違い、プロのミュージシャンの腕慣らしであったり、生活のためであったり、中には死活問題として生活の中に、なくてはならないものであったりする人もいます。
つまり、イギリスのバスカーの中には、それを生業としてやっている人も多いわけです。
ですから「バスキング」というのは、「歌手」「バンド」「スタジオミュージシャン」などと同じく、ひとつの音楽職業のジャンルでもあり、「バスカー」という存在そのものが、一般的にも認識されているわけで。
「私の職業は、バスカーです。」
こういうのもアリなのです。実際に私はロンドンで、不動産を「職業:バスカー」で借りたこともあります。日本ではあり得ない話しですよね。
「職業:路上歌手」これで部屋を貸してくれる大家が日本にいたら、なかなかファンキーだと思います。
これも言い換えれば、プロモーションとして歌い演奏するという日本式のバスキングの場合、オーディエンスも、応援する、声援を送る、ファンとして近づきたい、音楽を身近に聞きたい・・・そういう意識があり、返ってチップを与えるなんて無粋なことはしない。
将来的にも声援を送り続けるというスタンスで応援する。
生活の糧として路上演奏をする英国式のバスキングでは、オーディエンスは声援よりも、応援、イコール、その場での音楽のお礼を与える。そのミュージシャンに特段、声援を送るわけでも、それが誰なのか知らないけども、ただ目の前の音楽のお礼にチップを与えるという意識があるわけです。
前者と後者、バスキングという職業をもって生活していくことが可能か不可能か、という事のみが、一般的に仕事の一種として認識されるか否かの結論かなとは思います。
ただ、実際のところは、いくらバスキングというスタイルが職業的に確立しているように見えるイギリスでも、「バスカー」というのは、プロとして満足な収入が無いプロのこと、という意識が皆にあるのも事実ではあるので、それを生涯の生業にするのも格好いいけども、あくまで、ステップアップとしてやる、という期限付きの方が良いかもしれません。
と、いうのもね、本腰入れれば、バスキングだけでも食べていけるのです。勿論、相当な体力を消耗しますし、それ一本に絞る事になるので、ミュージシャン同士のつながりや、別ジャンルへの進出、そして社会交流も疎かになってしまいますが。
バスキングで身につくこと、学べること
バスキングを長時間繰り返すことで身につくことは以下になります。
- 即興性が身につく
- オーディエンスがお花畑に見えるようになる(緊張しなくなる)
- もし間違えてもうまく誤魔化せるテクニックが身につく
- 多少の野次には全く動じない強靭なメンタルになる
- みんな聞いてくれてるだろうか、みんなに聞いてほしい!など、自分の主張が無くなる(バンドや集団演奏の際の協調性ができる)
- ボーカルや吹奏楽器なら強靭な喉や肺活量、弦楽器奏者なら強靭な指になる
- 延々と10時間歌ったり演奏できるようになるため、2時間のステージで疲れることは無くなる(ライブが楽になる)
- 水を飲まずとも長時間歌えるようになる
- 図々しくなる(周りに変な目で見られても気にならない)
- 悪さをしようとする人間への鼻が効くようになる
まだまだありそうな気もしますが、こんな感じでしょうか。
例えば、「自分の主張が無くなる」など、これってどうなの?というような項目もあるかもしれませんが、割とコレ、重要です。
以前、日本の著名な作曲家さんに、こう言われたことがあります。
「歌を聞いて聞いて!と歌うと、客は引いてしまい、聞かなくなる。逆に、語りかけるようにふっ、と歌うと、”えっ” と、耳を傾ける。」
それまで私は、歌は、迫力や声量だと思っていたんです。(もちろんピッチや表現力などの基本的なことを含めて)
もともと、声量はかなりある方なんですが、実は私の声、結構鬱陶しいんですよ。(笑)尖ってるというか、ストレートにバーンと入るので、CDよりもライブの方が良いタイプの声なのです。
自分でも、耳障りだなーと思う時があるので(笑)ミックスダウンする時は必ず、ボーカルをぐっと下げて、バンドの音を前に出すようにしてるので、逆に、デモなんかを聞かせると「ドラムとベースがうるさすぎる」と、言われた事もありました。(笑)
そんな声で、うわーっと歌うと、まさに、聞いてくれー!という雰囲気になります。そこで見兼ねた作曲家の先生が、軽くアドバイスを下さったわけなんですが、有難いお言葉でした。バスキングをやって改めて、その言葉を思い出しますね。
恋愛と同じでしょうか、押してダメなら引いてみろと。
声を小さくするとか、ぼやくとか、そういう意味ではないんですよね。主張の問題。聞いてくれ、聞いてくれ、なぜ聞いてくれないの、そんな思いが先に出ちゃうわけです、通常は。
もちろん、バスキングの場合は路上ですから、音響の環境というのはかなり悪いです。音がどんどんと空中から遠くへ飛んでいき、跳ね返ってくることもないので、声量も必要です。しかし、やかましいのとは別です。この感覚は難しいのですが。
ロンドンでバスキングを仕切るチームからも、「国公認の奏者としてやるべきバスキングのルール」というのを伝えられるのですが、そのルールの中にも、「(CDを販売したりなど)自身の宣伝をしてはいけない」「耳障りになるような音量で演奏してはいけない」というものがあります。全ての人が心地よく聞けるように演奏すべし、と、皆が徹しているわけなんです。
つまり、バスキングをやる上での主役は、通行人の方々であり、バスカーではないという事です。
バスキングのオーディエンスは、通行人です。しかしながら、そのオーディエンスは、バスカーの音楽を好んで聞きに来ているわけでもなく、そのバスキングを聞く事に対価が発生しているわけでもありません。(ちなみにチップはあくまで心付けなので、また違います)
聞きたくない人もいれば、バスカーの音や声が好みでない人もいます。ご機嫌が悪い人、辛いことがあった人もいます。むしろ、そういった人たちが大半です。
そんな人たち含め、万人が気分を害されることもなく、逆に気持ちよく聞ける音楽。それがバスカーに求められていること。
そのためには「引いて演奏すること」なのです。
自分のファンであればまだしも、興味のない人や見ず知らずの人に対して、自分の歌や演奏を聞いてくれー!という演奏だと、おのずと、耳障りになってきます。
逆にいうと、その人そのものの、魂どっぷりの歌声や音が聞きたい場合、お金を払ってライブを聞きにいきますからね。
バスカーの音楽に不愉快な思いを抱いた人は、露骨に顔や態度に出しますし、エレキギターで、アンプを大音量にしてソロを弾きまくったバスカーは、クレームの電話があったそうです。それが最高の演奏であっても、そこを見ない人がほとんどなわけですから、結構ヘコみます。
バスカーには、ハープ奏者や、ハーモニカ奏者、バケツ・ドラム奏者、サックス奏者などいろいろな楽器を演奏している人がいますが、半分近くは、ギタリストかボーカリストです。
ギターとボーカルは、もともと主張強い人が多いですよね。(笑)
どうやったら、皆が不愉快な顔をせず、平然とした顔で歩き去ってくれるだろう、どうやったら笑顔になるだろう、そう考えているうちに、「引き」を学ぶ事になり、その「引き」が、ジャムセッションなんかに行くと、バンドのバランスをうまく取る事ができ、音の中で自分が浮かずに馴染めていることに気づきます。悪いことではないと思います。
自分を出そうとする事は、いつだってできますからね。
それに、音楽をやっている時点で十分に主張が出来ています。引いたところが、誰も聞いてくれないというようなら、おそらくこれまで、主張で無理やり聞かせていただけかも?しれません。
兎に角、海外のバスキングでは、1セット30分とか1時間というのはまず、無しです。
10時間も演奏する必要はないですが、最低2時間、もしその場所の許可が許すならば、4時間くらいやった方がいいです。
午前に目の前を通った人が買い物を終え、昼過ぎに再び通ってくれるかもしれませんからね。その人の心を掴めるのが、その二度目の演奏です。一度目に素通りした人でも、二度目に見かけて素通りはほとんどない。音楽の演奏とはまた別の感動がそこで生まれるからです。
そして、音響の悪い場所で長時間歌ったりするわけなので、慣れない頃は喉もやられるし、相当な体力を消耗します。
でも、「慣れ」って結構便利なものでして、気がつくと、喉が強靭になって、ちょっとやそっとじゃ潰れなくなるほか、ライブ演奏や長時間のレコーディングも楽々こなせるようになります。
バスキングの場合は、もちろん一人で挑むわけですから、一旦その場で演奏始めると、しばらくその場所を動けなくなるので、トイレの心配も避けたいですよね。知らずと水分をセーブしているうちに、喉を潤さなくても歌えるようになっていますよ。私は、何時間であれども、水分を持参してバスキングをすることは、まず無いです。
ただ、体調管理のために水分は摂った方がいいですけどね。(汗)
延々と演奏を続ける事で、持続力、耐久性がつくことが大きな利点です。
当然譜面も見ずに演奏を何時間も続けている事で、間違えたりする時だってあります。
そんな時でも、その瞬間を目撃した通行人にとってはそれが全てですし、すかさずツッコミが入る事もあります。
間違えないのがベスト。しかし、もし間違えた場合、そこを、いかに間違えてなかったかのように見せるように、流れるように上手く次の演奏につなげたり、表情は笑顔をキープしたり、そういうテクニックがついてくるのもバスキングの良いところ。
人と出逢うこと、それが何よりの財産
ほとんどが体力面やメンタル面ですが、別途、面白いのは人間観察ですね。
たった一人で延々と演奏してても、孤独な演奏は続くばかり。やっぱり、何か変化が欲しくなってくるわけなので、目の前を行き交う人々を観察しながら演奏をするようになってきます。
そうすると、街の空気が手に取るようにわかるのです。
ああ、何か悪いニュースがあったんだな、とか。景気が良い時期なのかな、楽しそうだな、とか、フットボールで優勝したんだな、とか。
それが全体だけでなく、目の前を通る一人一人の表情まで察することができるようになってきます。
悲しいことがあったのかな、何かすごく苛立ってるな、幸せそうだなとか。あの人は私の元へ向かってるな、演奏を気に入ってくれてるのかな、あの人は絶対に足元のチップを盗もうとしているな!とか、これ、確実にあたります。
おかげで、悪い面での被害もほとんどありません。(笑)
それほどまでに人間って、自分の持つ雰囲気やその時の気持ちというのが表に現れていて、それが周りに影響を与える事って多いんですよ。
何より、一期一会である出会いが数多く存在し、その瞬間、瞬間の「Thank you」という言葉。それを受け取れるという事。
これが、バスカーにとっての、一番の財産ではないでしょうか。
ぜひ、皆さんも、バスキングにトライしてみてください。
そして、その瞬間、瞬間のシーンが切り取られ、自分の記憶の中のアルバムに一枚一枚貼られていき、永遠に自分の心に残り、励ましてくれることを、体験してみてください。
次回は、海外バスキングの具体的なプロセスの第一段階として、「バスキングの目標設定」について、語っていきたいと思います。
ご一読ありがとうございました。
バスキングをやる目的は?チップは課税?まずは目標を設定しましょう!
バスキング生活の意外な落とし穴
私が公認バスカーとして国から公式な演奏ライセンスを取得した2007年の同期に、美しい女性バスカーがいたんですけど、彼女は格好良かったですよ。1年も経たないうちに、免許を返納しちゃいましたから。
バスキングを初めて半年くらいは過酷な日々が続きますが、半年を過ぎると、良い演奏場所にも恵まれるようになり、収入も増えてくるんです。
それも、大好きな音楽の仕事で。ほとんどのバスカーは、1年目を終える頃には、(このまま行けば人々にも覚えてもらえて、お金も増えて、音楽も有名になってミラクルが起こるかも!)と思い、そのまま継続してバスキングワールドを進み続けるのです。それが大半なんですよ。
しかし、現実はそこまで甘くありません。
1年を過ぎると、今度は街を行き交う大衆に「飽きられる」という現象が起こり、同じ曲のリピートも演り難くなり、毎回チップを投げてくれる常連さんも、さすがに毎回もは・・・と、なってくるほか、顔馴染みになってしまうと、そこには既に友人関係が成立します。
無言でチップを落としていった通行人のほとんどが、顔馴染みになることで、チップから挨拶や雑談の仲に変わるのです。下世話な話しではありますが、当然、バスカーの収入も伸び悩みます。逆に、苦しくなってくることも。
一番怖いのが、それでもなんとか食べてはいけるので、生活のためにと頑張ってしまう事です。
これは、決して悪い事ではありません。しかし、バスキングで食べていこうとなると、相当な体力や時間を消費します。
前途の通りに、他の音楽ジャンルに進出することや、社会的交流を保つのも困難になります。自分の曲を作り、CDとして発売し、世の中に聞いてもらう!という目標のためのステップのバスキングだったのに、気づけばバスキングに縛られてしまって、時間だけが過ぎてしまうのです。
しかし、それでも続けてしまう。それはやはり、バスカーの皆が、何より音楽を演奏する事が好きだからです。
その場所で演奏を続ければ、自分だけのステージが必ず毎日確保されます。大きな賭けに出るよりも、毎日愛する音楽演奏だけを続けて暮らせる保証の方が、幸せ。それも音楽家のサガだと思います。
ですから、バスキングを天職としてまっとうする事も、格好いい事だし、なかなか出来ない事です。バスキングも、プロの仕事の一つなのです。
しかし、私の知人のその女性バスカーちゃんは、1年も経たずにその現実を悟り、バスキングの収入が増え、人々にそのバスカー姿を認識され人気が出始めた頃に、ぽいっ、と、惜しげも無く免許を返納し、バスキングの舞台から去って行きました。
格好いいのが、皆が1年目を終える頃にはすっかりバスキングワールドにハマっている最中、その蜜の味にハマる前に抜けるというところでしょうか。
彼女は今、有名ではないものの、ジャズ奏者として様々なライブや作品に参加しているようです。バスキングをやらずとも、音楽一本で食べていくようになりたい、そう決めて選んだ道を見事に突き進んで、音楽一本で生活しているようです。
こんな話しをしていると、バスキングを推奨するどころか、やらない方が良いと言っているみたいですね。
そんなことはないです。やはり、ミュージシャンである以上、やる価値もあり、得るものも大きいです。
人なんて集める必要はありません。
市民の皆様から苦情が出ても困るわけなので、人なんて集まらない方がいい、その方が気兼ねなくマイペースにやれるとまずは考えて、経験の一つとしてトライしてみてください。
バスキングで身につくこと、学べること
バスキングを長時間繰り返すことで身につくことは以下になります。
- 即興性が身につく
- オーディエンスがお花畑に見えるようになる(緊張しなくなる)
- もし間違えてもうまく誤魔化せるテクニックが身につく
- 多少の野次には全く動じない強靭なメンタルになる
- みんな聞いてくれてるだろうか、みんなに聞いてほしい!など、自分の主張が無くなる(バンドや集団演奏の際の協調性ができる)
- ボーカルや吹奏楽器なら強靭な喉や肺活量、弦楽器奏者なら強靭な指になる
- 延々と10時間歌ったり演奏できるようになるため、2時間のステージで疲れることは無くなる(ライブが楽になる)
- 水を飲まずとも長時間歌えるようになる
- 図々しくなる(周りに変な目で見られても気にならない)
- 悪さをしようとする人間への鼻が効くようになる
まだまだありそうな気もしますが、こんな感じでしょうか。
例えば、「自分の主張が無くなる」など、これってどうなの?というような項目もあるかもしれませんが、割とコレ、重要です。
以前、日本の著名な作曲家さんに、こう言われたことがあります。
「歌を聞いて聞いて!と歌うと、客は引いてしまい、聞かなくなる。逆に、語りかけるようにふっ、と歌うと、”えっ” と、耳を傾ける。」
それまで私は、歌は、迫力や声量だと思っていたんです。(もちろんピッチや表現力などの基本的なことを含めて)
もともと、声量はかなりある方なんですが、実は私の声、結構鬱陶しいんですよ。(笑)尖ってるというか、ストレートにバーンと入るので、CDよりもライブの方が良いタイプの声なのです。
自分でも、耳障りだなーと思う時があるので(笑)ミックスダウンする時は必ず、ボーカルをぐっと下げて、バンドの音を前に出すようにしてるので、逆に、デモなんかを聞かせると「ドラムとベースがうるさすぎる」と、言われた事もありました。(笑)
そんな声で、うわーっと歌うと、まさに、聞いてくれー!という雰囲気になります。そこで見兼ねた作曲家の先生が、軽くアドバイスを下さったわけなんですが、有難いお言葉でした。バスキングをやって改めて、その言葉を思い出しますね。
恋愛と同じでしょうか、押してダメなら引いてみろと。
声を小さくするとか、ぼやくとか、そういう意味ではないんですよね。主張の問題。聞いてくれ、聞いてくれ、なぜ聞いてくれないの、そんな思いが先に出ちゃうわけです、通常は。
もちろん、バスキングの場合は路上ですから、音響の環境というのはかなり悪いです。音がどんどんと空中から遠くへ飛んでいき、跳ね返ってくることもないので、声量も必要です。しかし、やかましいのとは別です。この感覚は難しいのですが。
ロンドンでバスキングを仕切るチームからも、「国公認の奏者としてやるべきバスキングのルール」というのを伝えられるのですが、そのルールの中にも、「(CDを販売したりなど)自身の宣伝をしてはいけない」「耳障りになるような音量で演奏してはいけない」というものがあります。全ての人が心地よく聞けるように演奏すべし、と、皆が徹しているわけなんです。
つまり、バスキングをやる上での主役は、通行人の方々であり、バスカーではないという事です。
バスキングのオーディエンスは、通行人です。しかしながら、そのオーディエンスは、バスカーの音楽を好んで聞きに来ているわけでもなく、そのバスキングを聞く事に対価が発生しているわけでもありません。(ちなみにチップはあくまで心付けなので、また違います)
聞きたくない人もいれば、バスカーの音や声が好みでない人もいます。ご機嫌が悪い人、辛いことがあった人もいます。むしろ、そういった人たちが大半です。
そんな人たち含め、万人が気分を害されることもなく、逆に気持ちよく聞ける音楽。それがバスカーに求められていること。
そのためには「引いて演奏すること」なのです。
自分のファンであればまだしも、興味のない人や見ず知らずの人に対して、自分の歌や演奏を聞いてくれー!という演奏だと、おのずと、耳障りになってきます。
逆にいうと、その人そのものの、魂どっぷりの歌声や音が聞きたい場合、お金を払ってライブを聞きにいきますからね。
バスカーの音楽に不愉快な思いを抱いた人は、露骨に顔や態度に出しますし、エレキギターで、アンプを大音量にしてソロを弾きまくったバスカーは、クレームの電話があったそうです。それが最高の演奏であっても、そこを見ない人がほとんどなわけですから、結構ヘコみます。
バスカーには、ハープ奏者や、ハーモニカ奏者、バケツ・ドラム奏者、サックス奏者などいろいろな楽器を演奏している人がいますが、半分近くは、ギタリストかボーカリストです。
ギターとボーカルは、もともと主張強い人が多いですよね。(笑)
どうやったら、皆が不愉快な顔をせず、平然とした顔で歩き去ってくれるだろう、どうやったら笑顔になるだろう、そう考えているうちに、「引き」を学ぶ事になり、その「引き」が、ジャムセッションなんかに行くと、バンドのバランスをうまく取る事ができ、音の中で自分が浮かずに馴染めていることに気づきます。悪いことではないと思います。
自分を出そうとする事は、いつだってできますからね。
それに、音楽をやっている時点で十分に主張が出来ています。引いたところが、誰も聞いてくれないというようなら、おそらくこれまで、主張で無理やり聞かせていただけかも?しれません。
兎に角、海外のバスキングでは、1セット30分とか1時間というのはまず、無しです。
10時間も演奏する必要はないですが、最低2時間、もしその場所の許可が許すならば、4時間くらいやった方がいいです。
午前に目の前を通った人が買い物を終え、昼過ぎに再び通ってくれるかもしれませんからね。その人の心を掴めるのが、その二度目の演奏です。一度目に素通りした人でも、二度目に見かけて素通りはほとんどない。音楽の演奏とはまた別の感動がそこで生まれるからです。
そして、音響の悪い場所で長時間歌ったりするわけなので、慣れない頃は喉もやられるし、相当な体力を消耗します。
でも、「慣れ」って結構便利なものでして、気がつくと、喉が強靭になって、ちょっとやそっとじゃ潰れなくなるほか、ライブ演奏や長時間のレコーディングも楽々こなせるようになります。
バスキングの場合は、もちろん一人で挑むわけですから、一旦その場で演奏始めると、しばらくその場所を動けなくなるので、トイレの心配も避けたいですよね。知らずと水分をセーブしているうちに、喉を潤さなくても歌えるようになっていますよ。私は、何時間であれども、水分を持参してバスキングをすることは、まず無いです。
ただ、体調管理のために水分は摂った方がいいですけどね。(汗)
延々と演奏を続ける事で、持続力、耐久性がつくことが大きな利点です。
当然譜面も見ずに演奏を何時間も続けている事で、間違えたりする時だってあります。
そんな時でも、その瞬間を目撃した通行人にとってはそれが全てですし、すかさずツッコミが入る事もあります。
間違えないのがベスト。しかし、もし間違えた場合、そこを、いかに間違えてなかったかのように見せるように、流れるように上手く次の演奏につなげたり、表情は笑顔をキープしたり、そういうテクニックがついてくるのもバスキングの良いところ。
人と出逢うこと、それが何よりの財産
ほとんどが体力面やメンタル面ですが、別途、面白いのは人間観察ですね。
たった一人で延々と演奏してても、孤独な演奏は続くばかり。やっぱり、何か変化が欲しくなってくるわけなので、目の前を行き交う人々を観察しながら演奏をするようになってきます。
そうすると、街の空気が手に取るようにわかるのです。
ああ、何か悪いニュースがあったんだな、とか。景気が良い時期なのかな、楽しそうだな、とか、フットボールで優勝したんだな、とか。
それが全体だけでなく、目の前を通る一人一人の表情まで察することができるようになってきます。
悲しいことがあったのかな、何かすごく苛立ってるな、幸せそうだなとか。あの人は私の元へ向かってるな、演奏を気に入ってくれてるのかな、あの人は絶対に足元のチップを盗もうとしているな!とか、これ、確実にあたります。
おかげで、悪い面での被害もほとんどありません。(笑)
それほどまでに人間って、自分の持つ雰囲気やその時の気持ちというのが表に現れていて、それが周りに影響を与える事って多いんですよ。
何より、一期一会である出会いが数多く存在し、その瞬間、瞬間の「Thank you」という言葉。それを受け取れるという事。
これが、バスカーにとっての、一番の財産ではないでしょうか。
ぜひ、皆さんも、バスキングにトライしてみてください。
そして、その瞬間、瞬間のシーンが切り取られ、自分の記憶の中のアルバムに一枚一枚貼られていき、永遠に自分の心に残り、励ましてくれることを、体験してみてください。
次回は、海外バスキングの具体的なプロセスの第一段階として、「バスキングの目標設定」について、語っていきたいと思います。
ご一読ありがとうございました。
バスキングをやる目的は?チップは課税?まずは目標を設定しましょう!