海外バスキングで「準備の必要のないもの」ひとつ目は、自分の売り込みグッズ、営業は必要はない・・・ということ、そして、そこには文化背景の違いもあるという事を前回お伝えしました。
根本的に、バスキング(路上ライブ・ストリートパフォーマンス)と、自分のライブは違います。
以前にお話ししたように、自分のライブの主役は自分。自分の音楽を表現し、自分の個性を出し、自分をアピールするステージです。
しかし、バスキングは、「公共の場」であることで、極端なことを言えば国の景色の一部であり、自分が主役ではありません。
公共の場を道行く、通行人の皆様こそが主役です。
そこで自分の売り込みグッズを準備して挑もうなんて、ナンセンス。
しかし、そこには多くの人が行き交うわけなので、演奏オファーのお声がかかるチャンスもあるかも?しれません。そんな時に、連絡先の交換はどうするの?覚えてもらうにはどうするの?
ご心配無用!
演奏オファーを本当に考えている人は、その場(バスキング現地)で何かの情報をすぐに得ようとはせず、きっと探してくれます!・・・と、いうのが、前回までのお話しでした。
さて、ここで一旦、おさらいしてみましょう。
準備の必要のないもの、ひとつ目、日本でイメージしていた路上ライブの概念。そしてふたつ目は・・・
自分売り込みグッズ。
でしたよね!改めて、自分売り込みグッズってなんでしょう。
演奏場所で表示するようなディスプレイ(自分が誰か、名前をわかりやすく見せるような名前表示のポップやポスター)ライブ告知やインフォメーションなどのフライヤー、CDやグッズなどの物販などですね。
通常のライブであれば、これらを準備するかと思います。
海外のバスキングには全部不要です。
意識したような目立つ衣装、そして、名刺も不要です。
本当に演奏オファーをしようと思っている人がいたら、それを判断しているのは視覚ではなく、聴覚のみであり、その場で得る情報は、バスキングしていた場所、日時、どんな民族であったか(どこの国の人だったか、男か女か)くらいです。
それ以上の情報を、その場で求めることはしません。なぜなら、音を奏で続けているバスカーの演奏をストップさせるのは、音楽家にとって失礼であると心得ているからです。
その情報をもとに、あなたのことが気になればきっと探してくれます。
そのためには、探しだせるような窓口が必要です。つまり、ウェブサイトなどの設置は最低限必要ですね。
そこには、イメージに加え、場所、日時、そして大事なのは「Busking」「Japanese」というキーワードも忘れずに入れておくことです。もちろん、これらは全て横文字で入れておいてくださいね!
サーチする手がかりは、それらのキーワードのみですから、重要です。そして、そんな数個のキーワードでも、十分に見つけてもらうことができます。
そのバスカー本人であることが確証できるように、イメージ(写真)があることも大事です。SNSのアイコンがギターの写真ならまだマシですが、コーヒーカップの写真だったりすると、そこでコンタクトを諦めてしまうかもしれません。
通行人がバスカーの姿を見かけるのは一瞬ですから、その時のイメージと、ウェブサイト上でのイメージ(服装や雰囲気など)は限りなく近い方が、良いかもしれませんよ。
「自分売りグッズ」の持参は不要ですが、やはり、気に留めてもらいたいと思うところで、相手が探してくれるかもしれない時のための準備や、なぜ自分の売り込みを控えるのか、ということを、今回は、また別の視点から考えてみましょう。
そのバスカーが自分である事が、探している人にもわかるようにしよう!
バスキングと自分のライブ、これの違いは、意識やその目的だけではありません。
演奏のバランス、聞こえ方、これも大きく変わってきます。
バスキングの演奏に、抑揚は求められません。ライブとは違います。
もちろん、そこにはスタッフやPAもいません。自分の演奏がどうだったか、コメントを聞くこともできず、フォローを入れてくれる人もおらず、盛り上げてくれる人も、スポットもSEもありません。
バスキングは、街を音で彩るデュークボックス、人々が求める音楽に近い方が好まれ、そして、それが苦手な人がいたとしても、不愉快に思わない度合いでの音楽を奏でる方が良いのです。
そういった意味でも、自分アピールはNG。自分という人間や音楽の世界観を作り、ステージにメリハリをつけて演出をするライブとは違います。
バスキングは4時間なら4時間、6時間なら6時間、一定のバランスで演奏することを求められます。だって、それを耳にする人たちは、一瞬でバスカーの前を通り過ぎるのですから。演奏のバランスだけではなく、精神のバランスも必要です。
自分を少し抑えるだけで、精神が不安定になる(=演奏が不安定になること)が解消できます。長時間、忍耐勝負のバスキングでは、「プロモーションしなきゃ!」そんな思いこそが、バランスを悪くさせる要因のひとつなのです。
どれだけ目立とうとも、気にしない人は全く気にしません。気になってくれる人は、アピールをされたから気になったわけでもありません。
ぜひ、気持ちを楽に、野心や欲望はあまり出し過ぎず、声かけてくれる人、探してくれる人がいたらラッキー、くらいの感覚で、トライすることをお勧めします。
取り急ぎは、もしも気になってくれた相手が自分を探したいと思った時、探せる入り口があるかどうか、というのは重要ですね。つまりは、SNSやウェブサイト。
プロモーションのために準備するのは、それだけです。現場で何かを用意する必要はありません。
お話したように、アーティスト名がわからなくても、キーワードやイメージなどで「そのバスカーと同一人物であるかどうか」が、探している相手にとってわかりやすい方がベターではありますね。
探して欲しい場合は、ですよ。
かなり以前の話しですが、私が某新聞社の取材を受けた際のことです。私のバスキングを見かけた記者さんの部下の方がウェブサイト伝にメッセージを送ってくださり、そこから取材に発展しました。
場所や時間や、その風貌などから検索し、特定に至った?ようです。
そして、その部下の方が「この女性では?」と、私へのコンタクト先を見つけ出し、上司である記者さんに伝えたようなのですが・・・
そのイメージを確認した記者さんは「いやいや、こんな怖そうな顔の金髪のお姉さんではなかった!もっと、日本人といった感じの女性で、優しい声で歌っていた!この人は違う!」と、私へのメール送信をするかしまいか、悩みに悩んだそうです。
当時は、かなり言葉の荒い(笑)ブログや、男気溢れる妙なウェブサイトを、日本語でも英語でも運営していたものですから、実際に私が新聞社に訪れるまでは
(すっごい怖いヤンキーみたいな人が来たらどうしよう・・)
と、かなりドキドキしてたようです。まあ、会って、「そうそう、あなたよね!」と、なったんですけどもね。(ちなみに、怖いという誤解?も解けました。笑)
そんなこともあるので、ウェブ上の写真や、バスキングのスタイルの、ある程度のイメージの統一はしておいた方がいいかもしれません。(笑)
バスキングはたった一人で行うステージ。誰も頼れない、不特定多数の人が訪れる場所での無作為なプロモーションは避けるべき
また、ネットで探すなんて面倒なことはせず、直接依頼を伝えちゃえ!と言う方もいらっしゃいますが、そういった方は、あなたに一言ご挨拶をし、名刺をギターケースやチップ入れの中に入れて、すぐさま立ち去ります。
場所は、日本ではない海外。異国の地。そして、その国でのバスキングに慣れ親しんだ人たちが声をかけてくるわけですから、皆が「彼らは演奏をストップすることができない、仕事中だ」と言う、海外のバスキング事情を心得てる、そんな意識でいます。
その場で長々話し込む方や、バスカーにとって見ず知らずである自分に対して「名刺をくれ」なんて無粋な事を言う方はいません。
私は日本人なので、バスキング中も一応、名刺を持参してたのですが、それは、あくまで日本人の方が声をかけてくれた場合のためですね。
日本では、名刺交換はビジネス上のご挨拶の基本でもあります。また、海外で駐在しており、演奏のご依頼をくださる方は、ほとんどが日系企業の海外支社や支店などでお勤めの方です。
そんな方々が身分を明かした名刺を下さり、その方に対して名刺をお渡しすることがトラブルにつながることは皆無です。
海外には名刺交換の文化はありませんから、ビジネスカードを置いていく方のテキストのほとんどが、名前とアドレスとウェブサイト程度の、簡易的なものです。企業名などを載せてたら親切な方ですね。
その場合、その名刺交換の一瞬で、その方がどんな方か見分けるのは、現地に長く住んでいても困難です。
名刺を置いてくださった外国の方がいたら、その場でこちらからの名刺をお渡しはせず、頂いた情報をもとにある程度調べてから連絡する方が無難です。
自身の情報を路上であまり出しすぎない、アピールをし過ぎない、と言う事は、犯罪が多い海外でのトラブルを回避する意味もあります。
忘れてはいけないのは、そこにはあなた一人しかいません。もし、バスキング中、気が緩んでいる瞬間に、通りすがりにバッグを盗まれてしまったら、自分で追いかけていくしか無いのです。
ライブやセッション会場に訪れるのは、音楽が好きな方。目的を持った方です。音楽業界の人であれば、良い音楽を探すために訪れているに違いありません。そんな場所で自分の情報を出しプロモーションをするのは、問題ありません、いえ、しなければならない場所ですよね。
しかし、路上は、不特定多数の方が通ります。
そこで情報公開を無作為にしたり、いかにも「オファーお待ちしています!」「連絡ください!」というような姿勢をアピールすることが、どれだけ危険なことか、わかりますよね。
女性の場合は、一歩間違うと「安売り」をしていると、違う方向に取られることもあるのです。
あなたのバスキング姿を見て、真剣にご縁を繋げたいと思ってくれる方がいたら、あなたが名前を名乗らなくても、きっとあなたへのコンタクト先を探し出してくれます。
あと、親切風に依頼話しを持ちかけてきて、長々話し込もうとしている人にも、やや注意が必要です。良い人かもしれない、純粋に話しをしたい人かもしれない。でも、その隙に何かを取られたり、せっかく入ったチップを取られていたりなど、その人がスリであるかもしれない可能性を疑いながら、気を抜かないことも必要です。
寂しい意見と思うかもしれないですが、異国の地では「まずは疑う」ことを忘れてはいけません。それが最も効果的な自己防衛です。信じるのは、そのずっと後です。
外国人の方で、なんの悪意もない人で、真摯にその後の展開を考えてる方でしたら、逆に、こちらの情報は聞かずに、自身の名刺だけ置いて立ち去る方がほとんどですよ。
あとは、あなたの音楽が気に入り、CDはないの?と聞かれた場合に用意したい、物販の準備ですね。これも不要。
CDなどの物販についてNGな理由は、以下の記事をご一読ください。
CDが欲しいと言われたら、その際に自分のアーティスト名を伝え、ダウンロードして頂くようにしましょう。
もし、その時点でリリース作品が無いとしたら、音源を公開する際にはインフォメーションすると伝え、相手の連絡先を訊ねてください。
その場で販売できないのは残念に思うかもしれませんが、こちらもちゃんとご縁が繋がりますので心配は要りません。本当に気に入ってくださったのならば、すぐさまSNSのリクエストが入ったり、活動をフォローしてくれます。
こうあるべき!という固定観念が消えると、バスキングも楽になる
どうでしょう、この辺のプロモーション用の持参物や、売り込まなきゃ、チャンスを掴まなきゃ!という意気込みがなくなると、かなり身軽になりませんか?
例えば、日本でストリートパフォーマンスをするとして、演奏の練習やセットリストの準備はもちろんのこと、その場でのハプニングに備えての営業道具や、ファンを獲得するための物販やプロモーション資料(フライヤー)など、必要だなって考えますよね。
もちろん、営業するのは自分。その準備は必要です。
誰かが興味を持ってくれたら、その場でCDを渡せるくらいの準備をすることは大事なことですよね。また、日本で名刺を持参せずに活動するインディーミュージシャンと言うのは、あまり聞いたことがありません。持ち物としても必須です。
最初に話した通り、その国、その国のバスキングのスタイルに従うということは重要です。
日本で路上でパフォームをしていて、例えばレコード会社の人に声をかけられた・・・そこで、「名刺も音源もありません」なんて言ったらもう、そこでチャンスを逃しますよね。
バスキングからシンデレラドリームも夢ではない日本では、そう言った基本的な常識は守るべきです。
でも、それらを全て準備して、荷物を抱え、アンプを引き、いざ路上に出てゆく。セッティングをする、演奏をする。雨が降ってきた、音の注意をされた、移動しなきゃ。
実のところ、移動ひとつにヨイショがいる、大変な作業です。
そこまでやるなら、どこか場所を借りてライブをやった方がいいのでは?なんて、まさにその通り。
路上でのプロモーションの否定は全くしません。それは絶対にアリ、インディーミュージシャンにとってやるべき事です。
でも、海外では、それが通用しません。
バスカーはプロモーションしない方がいい、とか、プロモーションをしてはいけません!などというルールがある事で、その自分売りのしないスタイルが常識になっているわけです。
そう、そこで私たちが背負っている、ひとつの負担が消えるわけですね!
「万一に備えて、最低限これだけの準備をしなければ」という概念がなくなる。ようやく、本来の、自由気ままなバスキング体験が、海外ではできるというわけです。
プロモーション材料を持参せずに、着の身着のままでバスキングを謙虚に、地味にやってるだけでも、何千人の中の一人でも耳に、そして目にとめてくれる人がいたら・・・こちらから何のプロモーションもせず、チャンスを与えてくれることだってあります。
シンプル・イズ・ザ・ベストです。
やたらとアピールをするよりも、アピールを全くせずにただひたすらに演奏をする。
それこそが、究極にシンプルなプロモーションであり、そして、原点でもあるのです。
続いては、日本人が考える外国人の日本への興味度と、海外での実際の割合の違いについてと、バスキングにおける、本当のプロモーションとは何か、この辺を考えていきたいと思います。
ご一読ありがとうございます。
バスキングに必要だと思っていた不必要なものって?その四『プロモーションは必要?(3)』5%へ向けての信念よりも、まずは現地に寄り添う事から