「バスキングをやりたいんですけど、どうすれば良いですか?」
こんな相談を受けることがよくあります。
最近は、「バスキング」という言葉もよく耳にするようになってきました。でも、その意味のほとんどが、(海外で)という事を含めているようにも思えます。
「バスキング」というのは、路上で演奏をするという事。つまり、ストリートパフォーマンスと同じ意味です。ストリートパフォーマンスを直訳すれば「大道芸をする」という事。大道芸をする人たちが、「バスカー」、つまり「大道芸人」です。
もう少し日本的な解釈でいうと、「路上ライブ」をやること。
バスキングを始めることはとっても簡単。
路上に出て、演奏したり歌ったり、それこそ鼻歌でも、路上でパフォーマンスをすれば、立派なバスキングになります。
私の元同僚(つまりバスカー仲間)に、口笛吹きのお兄さんが居ました。まさに口笛だけでメロディーを奏でているだけであり、楽器は使っていません。
それでも、英国から公式のライセンスを受け取って、日夜バスキングに励んでいました。
簡単そう!なんて一瞬思うかもしれませんが、口笛も身体が楽器。なかなかの肉体労働です。
特に、英国公認バスカーは、時間が1ショット2時間、一日2回、つまり最低でも4時間、延々と演奏しなければならないので、そう簡単な事ではありません。
中には、バスカーの演奏を批判する人もいます。
そして、行き交う通行人の方達の耳に心地よく届くよう、メロディーを奏でるわけですから、やはり、ライセンス取得が出来るだけの事もあり、その口笛バスカーのお兄さんの音は、本当に心が癒されるような美しいサウンドでした。
そして、何よりも、通行人の中に野次を飛ばす人が仮にいようとも、子供たちにワイワイと取り囲まれようとも、堂々と演奏を続けるというメンタルが一番重要。
極端な話し、メンタルさえ強ければ、あとは個人での練習や、場数の積み重ねです。
その人(バスカー)の持つ雰囲気や笑顔に癒されるという通行人さんも多いので、堂々とした振る舞いや、誰も見ていなくても笑顔で演奏し続けるという姿勢、これも路上でオーディエンスを味方につける大きなポイントになります。
プロのミュージシャンでもいますよね、技術は100%完璧でなくとも、周りを惹きつける魅力がある人とか、歌手でもヘタウマと呼ばれる「味のある人」とか。
バスカーも同じ。その辺のプロ以上のスキルを持つ強者もいれば、演奏力じゃない何かで人を惹きつけている人、様々です。
ですから、よし!バスキングをやろう!と思えば、思った瞬間に表で演奏してみる!歌ってみる!これができれば、誰でも今日からバスカーです。
しかし、バスキング希望者にこんな話しをしていても、すぐに飛び出ず、いつかやろう、なんて言って、話しが終わってしまう人もいます。その場合は、おそらくずっとバスキングをやらないのでは、なんて思ってしまいます。
何事も最初は、勢いからです。そして、周りに相談者がいたり、アドバイスをもらえた時こそがチャンス。そういった人たちを巻き込んで、
「一番最初は不安だから、見にきて!」
「最初のバスキングの写真を撮って欲しいから、一緒に来て!」
なんて、甘えちゃば良いのです。
大抵の場合、相手に親身に相談に乗っている時って、その相手がすぐに行動を起こせば、何か協力してあげたいと思うのが人間です。
流石に、ネットで知り合った人に・・というわけにはいきませんが(笑)、身近で、自分の希望や夢に耳を傾けている人がいる時こそチャンス。そこで最初の一歩を踏み出すかどうかが、一番大事です。
では「海外で」という部分に焦点を絞ると、どうでしょう。
これも同じ。とにかくやっちゃえ!というのが先です。
バスキングに壁はない!
ほとんどの方は、異国の地でバスキングをする事に大きな壁を感じていると思います。
私はイギリスで、一時は、それこそクリスマスの休日以外、休み無しで日々演奏を続けるということを何年も何年も続けていましたが、そんな私からいうと、逆に、日本でバスキングをする方が結構敷居が高く感じました。
日本でも最近では当たり前のように、ストリートパフォーマンスをする人が増えていますが、このバスキング(大道芸)文化って、海外では我々の認識よりももっともっと長く根付いている文化です。
日本では、自分のプロモーション活動の一環としてバスキングを行う人も多いと思いますが、海外ではそのほとんどが「生活のため」であったり、ミュージシャンの「腕慣らし」や、「時間つぶしのお小遣い(チップ)稼ぎ」だったりします。ごく自然に音楽家が行うという事と同時に、周りの人からも日常的な風景として見られているわけです。
突如、見慣れない人間が路上で演奏を始めたとしても、決して、白い目で見られることはありません。
日本だと、路上演奏を行う事自体が、割と珍しいものと感じる人の方が、未だ多いのは事実ですよね。
また、「誰かがライブをやっている!」と言う感覚で周りに人が集まってくるわけなので、演奏する側も、「ちょっと暇つぶしに・・」なんて気軽にやるのも微妙。下準備やセットリストを頭に入れておくなど、ヨイショも必要なイメージ。
英国に渡る前、沖縄と横浜でストリートパフォーマンスをしたことがありますが、その時もやはり、自分のプロモーションのためのライブショーみたいな雰囲気でした。やっぱり少しはヨイショが必要だったかな。
それでも、ワイワイと楽しくやった記憶もあります。やはり、ライブをやる時と同じような感覚だったように思います。
海外でのバスキングは、本当にライブの感覚とは違い、デュークボックスとして、通行人の皆さんの妨げにならないよう、良いBGMになるように歌い演奏するのが普通なので、立ち止まって聞いていくという人は稀です。
また、立ち止まってしまうほどのパフォーマンスも禁止。何故なら、普通に通行したい人の邪魔になりかねないからです。
立ち止まって聞きたいな、と思う人は、路上の隅にひっそり立ち、陰ながら見守るというのが海外でのバスキングオーディエンス。その代わりに、無言で通り過ぎていく人々からは、かなり沢山のチップが入ります。
これは、そのアーティスト個人を応援する意味のチップではなく、バスカーに対しての「演奏をありがとう、路上を明るくしてくれてありがとう」というお礼の意味のチップなのです。
日本では、パフォーマーの名前や曲を覚えてもらうためのプロモーションの場所ですが、海外ではまさに、そういった反応を得るためだったり、生活のためや腕慣らしの場所なのです。
そんな海外でのバスキングに慣れきってしまっている私が、改めて日本でバスキングをやった時は少々勇気が必要でしたが、そのきっかけというのも、友人の勢いの一言から。
一年ほど前に、夜、日本の友人宅へお邪魔する際、友人と共に電車に乗っていた時に、「駅に着いたらバスキングをやって!」と、突然言われたのです。いやあ、駅に着くまで拒み続けました。(笑)
結局は、駅を出てすぐに自ら背負っていたギターケースからギターを取り出し、バスキングを始めちゃったんですけどね。サガですね・・・。
日本でのバスキングにはかなりのブランクがありましたが、やってみた結果、やはり、勢いでやれば数秒でその場に慣れちゃう、ということを改めて感じました。
そして、日本でもバスカー改め、ストリートミュージシャンがごく普通に日常に溶け込めるほどに時代が変わっているんだなと、思いました。
東京で演奏するには、場所だけ注意すればあとの敷居はさほどないかもしれません。
友人に「やってやって!」と言われて、「いやいやいや・・・」と、結局拒んで日本の駅前でバスキングをやらなかったとしたら。
きっと、今でも、日本でのストリートパフォーマンスにかなりの高い敷居を感じていたと思います。
そんな私が、海外でバスキングやる方が気が楽だと言ってるわけなので、全然大丈夫ですよ!ぜひ、海外でもトライしてみてください。
海外でも日本でも、とにかく表に出て演奏する、無理なら5分でやめればいいと気軽に考えて、あとは勢いに任せましょう。
私が一番最初に海外でバスキングをした場所時、これも実は勢いなのです。
ある時ふとイギリスで路上演奏する!と心に決め、周りに「演奏してくる!」と、その演奏デビューの時期まで決め、半ば冗談でふれ回っていたのです。それも、ギターも弾けない頃に。私も、ほとんど冗談のつもりでした。
ところが、設定した日程が近くたびに、(やると言ったからにはやらねば)という思いになり、ギターを買い、少々のコードを覚え、勢い余って英国行きのフライトチケットを購入し、とにかく行くだけ行くことにしたのです。
それが二度目の海外旅行、しかも一人旅だったので、不安はもちろんありました。
一度目の初海外旅行も一人旅でしたが、今度はギターを背負ってますからね。異国の地での盗難も心配だし、イギリス人から見れば外国人の風貌の私がギターを背負っている事で、目につくのも不安でしたから。
多分演奏も無理だろうと思いながらも、取り急ぎ、ギターを背負って行ってみることにしたのです。どこかでギターを手にした写真を誰かに撮ってもらって、友達に見せて誤魔化そうかなくらいの気持ちで。
それが、どうにかなって、無事にバスキングデビューする事ができたわけです。
なので、私のように、目標の場所や日時を具体設定し、後に引けないように周りに告知しまくっておくというのも、手かもしれません。おのずと、やらなければいけないような雰囲気になり、自分も動いてしまうものです。
実は勢い以上に「大事なこと」とは?
但し、これまで凄く簡単そうに話してきましたが、私は実はすごく慎重なところもあるのです。
新しい土地を訪れる際は、地理丸ごと覚えるくらいの勢いで、土地にだけは馴染めるよう(旅行者と見られないよう)気をつけています。
もちろん、危険予知のアンテナを張り巡らせて。
ですから、日本でも海外でも、勢いでやるのはOK、しかしながら、自分の身は自分で守る意識で、自己責任で行動することが大事です。それが、バスカーという自由かつ孤独に音楽をやる者の心得です。
海外でスマホに頼るのもアウト。電源のチャージが出来る場所は、そうそう簡単には探せません。
以前、イギリスでバスキングをやっていた時、日本人観光客の20代くらいの男性が、演奏している見ず知らずの私の元へ半ベソをかきながらやってきた事がありました。
一人旅で海外で暮らす先輩の所まで遊びにやってきた、しかし、すべての情報を収めているスマホの充電がなくなってしまい、その先輩の家の場所はおろか、連絡先も何もわからず困っていると言うのです。
連絡先もわからないのでは、私のスマホからその先輩に連絡してあげる事も出来ません。また、その男性は英語も全く喋れないにも関わらず、観光ブックどころか、地図ひとつも持ってなかったのだから、驚きでした。
ある程度テクノロジーに頼るのも便利だし良いと思うのですが、万が一のケースを考えて、二段階での安全対策をしておく事が大事です。
特に、異国の地では誰の助けも借りれず、何が起こるかわからない。そして一番に、言葉が通じません。
いくら語学に自信があっても母国語でない以上は、油断は禁物。
そんな場所で演奏を試みるのであれば、誰も信用せず、自分だけを信じる、それくらいの気持ちでいないと、うまく演奏まで漕ぎ着けたとしても、演奏の隙に荷物をすられてしまうなんて事もあり得るのです。
少しネガティブな面をお伝えしてしまいましたが、勢いでやるにも、やると決めた以上、最低限の緊張感を持って準備はしておきましょう、と言う事でした。
あと、これも重要な事なのですが、以下の場所では演奏しないように注意してください。
- 違反・禁止とされている場所
- 周りの通行人に迷惑が大きくかかる場所や時間帯、邪魔になる場所
- 営業中の店舗や会社の前、個人の自宅前や公共施設等
- 注意されるような事があったら、一度の注意の時点ですぐに撤退
細かく言い出すと、まだまだ様々な細かなルールや、マナーがバスキングの世界には存在しますが、必要最低限として、上記の場所ではやらないということを守るようにしましょう。
もちろん、その国の法律によって規制されている事もあります。
やはり、各自、正しく演奏を行えるようにリサーチし、注意を払っていきたいですよね。それが、バスキングの文化を守ることにもなり、ミュージシャンシップや社会と音楽のつながりをプラスに保つ事にもなると思います。
皆さんも、思ったその時こそがチャンスで、バスキングにどんどんトライしてみてください。
次回は、「海外でバスキングをやる事」へ向けて、具体的なお話しを語っていきたいと思います。
ご一読ありがとうございました。
バスキングで得れる心の財産って?〜バスカーの心得その弐〜