イギリスの友人達に、
「観光客にお勧めする、イギリスで美味しい料理ベスト・スリーは何?」
そう尋ねてみる事がよくあるのだが、誰に聞いても、ほとんどの人の答えが同じである。

一、フィッシュ・アンド・チップス
二、カレー
三、ケバブ

以上である。

ベスト・スリーの内、二つがイギリスの料理では無いじゃないか、そう思わず突っ込みたくなるが、それを言えば、西洋から伝わった料理が日本料理として定着している食べ物も多い。野暮は言いっこ無しである。

しかし、私はこの情報はかなり使えると思う。
もし、イギリス旅行で三泊するならば、三日間のディナーをこれらベスト・スリーの料理にすれば良いだけだ。実際に、これら三つの料理は、どこで食べようとも概ね外れは無いと言える。三泊分のディナーに、ローストビーフや、キドニーパイ等の上級者向けイギリス名物メニューを無理矢理選ぶ事が、そもそもの間違いなのである。

イギリスで食の冒険はリスキーだ。興味だけで走ってはいけない。安心出来る物だけに絞った方が良い。
先に言ったように、カレーとケバブに外れは無い。そしてこれらの料理は、現代ではイギリス人と切り離す事の出来ない食文化であると言える。
ただ一つ、注意して頂きたいのがフィッシュ・アンド・チップスである。

ご存知の方も多いかと思うが、このメニューは、白身魚のフライに、ポテトフライを添えたイギリス一の名物料理である。
イギリスでは、ポテトフライの事をチップスと呼ぶ。余談だが、ポテトチップスの事はクリスプスと呼ぶので、若干混乱する人も多いだろうが、とにかく、イギリスではイモが主食だと言っても過言ではない程に、大量に皿に盛られたイモ料理を目にする機会がとても多いだろう。
そして、イギリスのイモは美味しい。美味しい物を探すのが面倒な方は、滞在中にイモだけ食べていれば間違いは無いだろう。
白身魚のフライはタラが一般的なので、フィッシュ・アンド・チップスと聞けばタラを連想する方も多いと思うが、基本的には白身魚全般を指す料理なので、専門店へ行けば、コダラにエイやヒラメ、そしてカレイ等、細かく種類が書かれたメニューを目にして、混乱する人も多いようだ。思わず人と違ったフライを頼みたい心境にもなるが、あまり深く考えずにタラを頼めばよい。

ごく当たり前の流れとして、パブでこのメニューを頼む人が多いと思うが、パブでは魚の種類のオーダーはできず、基本的にタラのフライが出て来る。
しかし、なるべくならばパブでこの料理をオーダーする事は避けたい。
おすすめはやはり、フィッシュ・アンド・チップス専門レストランで優雅に食べるか、もしくは、フィッシュ・アンド・チップスと言う名の看板を掲げたテイクアウェイの店で買って、歩きながらほおばって食べて欲しい。

経験からして、パブでは、どうも当たり外れがあるらしいというのが私の感想である。油の問題なのか、何が原因かは分からない。
しかし、基本的に揚げ物やジャンクフードが好きという人であれば、パブで食べようとも問題無いであろう。
そして、フィッシュ・アンド・チップスを食べる時に忘れてはならないのが、フライされたフィッシュとチップスに、たっぷりとビネガーを振る事だ。
日本で食べる白身魚のフライのように、魚に下味をつけて揚げたり、揚がった衣にスパイスを振りかけるなど、そんな芸の細かい事はされていない。あくまでフライされた魚の種類、そして衣の揚げ方に重点を置いているシンプルな料理なので、素材自体は大変美味しいが、日本人にとってはそのままではやはり味気ないと感じる人も多いようだ。
ただ、フライされた魚の横には、タルタルソースも当然添えられてある。その辺のチョイスは日本人の味覚にも馴染み易いと思うので、安心して欲しい。
しかし、イギリスのフィッシュ・アンド・チップスのつきものと言えば、たっぷりのモルドビネガーだ。どばどばとフライに振りかけ、是非とも英国流の食べ方でトライして頂きたい。
更にイギリスらしさを強調するのであれば付け合わせのグリーンピースを、マッシュピースにしてもらうようオーダーしよう。
グリーンピースをすり潰し、マッシュポテト風にしたものがマッシュピースである。お味は日本のずんだ餅の豆餡にとても近い。
付け合わせにマッシュピースを選ぶ事によって、より現地の食事情を体験して頂けるかと思う。

二つめにイギリス人がお勧めするカレーは言わずと知れた、あのインド料理のカレーである。
実はイギリス人はカレーが大好きである。友達や恋人とディナーをする場所に、インド料理店を選ぶというのはまさに定番だ。
インド料理店で食べるカレーに外れはまず無い。又、パブで食べるカレーにも外れはほとんど無い。安心してカレーを選択して欲しいと思う。
よりイギリスらしさを求めるならば、チキン・ティッカマサラと呼ぶカレーを注文して頂きたい。

このメニューはもちろんインド料理のメニューであるが、発祥の地は実はイギリスなのである。インド系イギリス人シェフが、イギリスに構えるインド料理店で生み出した料理らしく、まさにイギリス人向けに開発されたカレーの味だと言えよう。
タンドリーチキンをマイルドな風味のカレーで煮込んだ、絶品の料理である。イギリス人のみならず、舌の肥えた日本人の口にもきっと合う事と思う。



トルコ料理であるケバブに関しては、日本ではあまり一般的ではない料理なので抵抗がある人も居るかもしれない。
しかし、ケバブもこれまた外れが無い。
例えロンドンの路面の小さな店であろうとも、レストランと変わらぬレベルの味のケバブを体験できる。私の個人的な意見としては、残念ながら、日本で食べるケバブは、ケバブではない。明らかにまろやかに味が整えられ過ぎており、ロンドンで貪りつくケバブとは全く違う料理に思えてくる。お恥ずかしながら、本場のケバブを食した事はないが、イギリス、そしてイタリアで食べるケバブは、求めている通りの同じ味、スパイシーでクレイジーなケバブである。やはり、日本よりもヨーロッパで食べた方が、よりケバブらしい味である事には違いない。
ケバブには、シシュケバブとドナーケバブと二種類ある。シシュは、串焼きされた、固まりの肉状態の物を指し、焼き鳥のトルコバージョンと考えると分かり易いだろう。
ドナーケバブは、垂直の串に刺した大きな肉の固まりを、ナイフで削ぎ取った薄切りの肉の事である。
ケバブのお肉は、ラムかチキンを選択出来る。または、両方の肉をミックスして食べる事も出来る。私はこのミックスケバブがお気に入りだ。
これらのケバブを、たっぷりのサラダと共にピタパンに挟む。しっかり肉の旨味が効いたケバブは野菜との相性が抜群に良い。サラダは、ピタパンに入りきらない程に沢山盛られるのできっと驚くであろう。こちらの人達は皆、意外や野菜好きなのである。

その際に、チリソースとガーリックソースをかけてもらう事を忘れないで欲しい。この二つのソースを抜かして食べるなど邪道である。そして、食べた翌朝はかなり口臭が気になる事も覚悟していて欲しい。

実はケバブは、イギリス人にとってあるシーンに欠かせない食べ物なのである。
日本のビジネスマンが、仕事帰りに居酒屋へ行き、お酒を飲み、酔っ払った状態で食べたくなる物は何であろうか。
先ほどまで散々料理を食べ、お腹は満足している筈なのに、どうもお酒が入るとアレが食べたくなる。翌日胃もたれするとは分かっていながらも、ついつい、帰り道に足を運んで食べたくなってしまう物。
そう、イギリス人にとってのケバブは、まさに日本人にとってのラーメンと同じ役割を果たしている料理なのである。
お酒が入ったらシメにケバブを食べたくなる、そんなイギリス人とケバブはこれまた切っても切り離せない関係なのだ。

以上、イギリス人がお勧めする料理三つは、イギリスの美味しい物として、皆さんの脳にインプットしておいて頂けたら幸いである。
それら三つ以外の料理や、冒険心で色々な料理にチャレンジしてみたいと言う方は、単純に、使われている食材で、外れが少ない料理を選択するという方法もある。
肉料理であれば、チキン。牛肉でも、豚肉でもない、鶏肉の料理を選べばほぼ間違いなく美味しく頂ける筈だ。

イギリスで生活し自炊をする時でも、牛肉を購入すると何故かその臭いが気になるという人も多いと思うが、イギリスの牛肉は血抜きをしていない肉も多いそうで、若干気になる肉の臭みも、そのせいであると聞いた事がある。
しかし困った事に、この臭いは調理されても継続して放たれている事が多い。イギリス名物のローストビーフを食べたが微妙であった、という意見が多いのはこのせいではないかと思う。
但し、全てがそうとは限らないので、美味しいローストビーフや、ビーフステーキを食べる事が出来る店は沢山ある。しかし、何も情報が無い中で店に入り、肉料理を頼むならば、ビーフは諦めて、チキンを選べばまず間違いが無いであろう。
シーフードも極めて外れが少ない。鯛や鱈などの魚を使った料理や、生牡蠣なども本当に美味しい。
ただ、聞いた事も無いようなシーフード料理ならば、やっぱり避けるのがベターである。

(つづく)